農業をするつもりがないのに実家が所有する農地を相続することになったら、どうすればよいのでしょうか。
土を耕したこともないまま実家を離れ農業とは無縁の暮らしを送っているひとが多い今、農地を相続するということに煩わしさや不安を覚えるひとほうが多いかもしれません。
この記事を読むと「管理しないとどうなる?」「なにか困ったことがあるの?」など、自分がいつか置かれる状況についてのあらましがわかります。
今は都会で暮らしているものの、いつかは「自身の問題」として考えなければならない将来の土地持ち非農家さんは、ぜひ参考にしてくださいね。
土地持ち非農家とは
みなさんは土地持ち非農家という言葉を聞いたことがありますか?
この記事を書いているまさに私がそうなのですが、私自身最近までこの言葉を知りませんでした。
「土地持ち非農家」で検索すると、次のような説明がでてきます。
「土地持ち非農家」とは、耕地及び耕作放棄地を合わせて5a以上を所有している非農家世帯(経営耕地面積が10a未満でかつ1年間の農産物販売金額が15万円未満)である。
農林水産省:農業・農村の現状を踏まえた施策の検証3-②表注 https://www.maff.go.jp/j/nousei_kaikaku/n_kaigou/05/pdf/data1-1.pdf
”耕作放棄地”というのは簡単にいうと「前は誰かが耕して作物を育てたりしていたこともあるけれど、最近は1年以上何も作っていなくて、これからもしばらく何も作るつもりがないよ」という状態の農地のことです。
また5アールというのは約500平米のことで、だいたいテニスコート2枚分くらいの広さです。
ちなみに “経営耕地面積” というのは「何かを作っている自分の土地と、誰かから借りてさらに何かを作っている土地をあわせた広さ」という意味です。
ですから土地持ち非農家というのはしばらくは耕作する予定のないテニスコート約2枚分以上の農地を所有しているひとという意味になります。
さて、私は40代の普通のパート主婦です。
テニスコートだと20枚分の広さの土地とそれとは別に山林を持っていますが、現在農家をしているわけでも家庭菜園をしているわけでもないですし、ましてや財産家でもありません。
ここ十数年、両親から相続した土地(ほとんどが山林か農地)の使い途が分からないまま、生活の傍らに草を刈ったり除草剤を撒いたりしていました。
そして気づいたら「土地持ち非農家」に首までどっぷりつかっていたというわけです。
非生産的!
管理しているだけブラボーじゃ
土地持ち非農家とは
しばらくは耕作する予定のない農地を5アール以上所有しているひとのこと
土地持ち非農家の動向
農林水産政策研究所 がまとめた「センサスに見る近年の農業構造変動の特徴と地域性」-「2015年農林業センサス結果の概要(確定値)」の分析から- によると、土地持ち非農家の状況について次のような記載があります。
https://www.maff.go.jp/primaff/koho/seminar/2016/attach/pdf/160728_01.pdf
借地による農地流動化や大規模経営体への農地集積は着実に進んでいる
ものの,その速度は鈍化し,耕作放棄地の拡大によって経営耕地面積の
減少傾向が強まる兆しが見え始めた
少し分かりにくいのですが、土地を持っているものの農業はしていないひとのなかには「じゃあ誰かに作ってもらおう」と考えるひともいるわけです。
そういうひとと「もっとたくさんの作物を作って農業を拡大したい!」というひとをつなぐ取り組みに国が力を入れた結果、休耕田や荒廃農地が減りました。
さらにこれまでとはスケールの違う大規模経営を行う法人や個人があらわれたおかげで、高齢化などで農業のリタイヤ人口が少々増えても、まあなんとかやってまいりました、
―というのが前半部分。
ところがどっこい「農業をやめて土地を利用しきれないひとの数がそれを上回って増えてしまったため、日本の農業用地が全体的にガクンと減ってしまったとさ。
―というのが後半部分です。
つまり土地持ち非農家はいますごく増えてきている、ということ。
土地持ち非農家があまりにもたくさん増えた背景としては農業環境の悪化や農家の高齢化、担い手不足などが挙げられます。
また私のように地元に住んで草を刈っている土地持ち非農家よりも地元を離れ都市部で暮らす土地持ち非農家のほうが圧倒的に多いと実感しています。このような現象を不在地主化と呼びます。
そうです、今の日本では農業の人気がなく親の跡を継いで「わたしも農家になろうじゃない!」という子どもがたいへん少ない。
親を見て農業の大変さや、労力のわりに収入が少ないということを知っていますからこれは仕方のないことなのかもしれません。
そういったこどもたちはたいてい成人すると家を出て、都市部で家庭を持ちサラリーマンをしていたりします。
「やれやれ、なんとか農家を継がずに済みそうだぜ」と、胸をなでおろすひともいるかもしれませんが、やがて両親がご隠居という頃になると相続の2文字がチラつき始めます。
農業からは逃れられても、農地の管理義務からは逃れられない。
日本では(よその国のことはわかりませんが)不動産を誰が相続したのか、ということは他人には分かりません。
親が亡くなったあと、すでに土地を離れて久しい後継者と連絡をとれる地元住民がいなかったり、連絡がとれたとしてもそのような相続人が地域の実情に疎く無関心であったりした結果が耕作放棄、ひいては荒廃農地化が進む一因と考えられるでしょう。
◎土地持ち非農家は増加傾向
➝耕作放棄地の荒廃農地化が加速的に進んでいる
要因として
・農業環境の悪化や農家の高齢化後継者不足
・農業と縁のないまま土地を離れて暮らす子世代と地元農家とのつながりの希薄化(解決策の提案などができない)
土地持ち非農家の農地の利用状況
そもそも「農地」ってなんだっけ?
農地法上の定義では次のとおり
「農地」とは、耕作の目的に供される土地のことをいう。
具体的には次のような土地のことです。
・登記事項証明書の地目が「畑」や「田」となっている
・現在の利用状況が農地である
・山林や原野が農地とみなされる場合がある(各自治体の農業委員会に確認が必要)
ふーん…
さて、農地は農業目的でしか使用できないきまりがあります。
どうしてかというと農地は私たちの生活を支える自給率を左右するためです。
農地に適した土地(エリア)には農業法による規制がかけられておりほかの地目とくらべて売却が難しいことをまず知っておく必要があります。
土地持ち非農家の所有地は総農家の24パーセントを占めていることが農林水産省の調査結果で明らかになりました。
そのうちの73%は農家に貸し付けてそのまま農地として利用されていますが、あとの残りは活用されておらず、今後耕作放棄地のさらなる増加が心配されています。
わたし残りの27パーセント民… どうしたらいい?
ふむ。シンプルに言うと次の4つじゃな。
非農家の選択肢4つのメリットについてこちらの記事で解説していますので参考にしてみてください
耕作放棄地に起こる5つのこと
ここからは将来の土地持ち非農家になるかもしれないあなたが土地を管理できなくなったときに何が起こるかについて予習しておきましょう。
その1 雑草被害に伴う病害虫の拡大
家に風を通さないと早く傷むように、土地を管理しないままで放っておくとたちまち荒れてしまいます。
まず春から秋にかけてみるみる雑草が生い茂ることでしょう。
植物には背が高いものと低いものの2種類に大別されますが、放置しておくとすべてが背の高いイネ科の雑草地になります。
害虫というのはたいていがこのイネ科植物につくため、管理を怠った農地にはカメムシやハダニなどが増えてしまうのです。
害虫のなかにはウイルスを媒介するものもあり、水はけが悪い土地ではカビや細菌などの被害が広まりやすくなります。
農地は塀などで仕切られた宅地とは違い地続きですから、隣地で農業を営んでいる農家さんにまで影響が及ぶとたいへん迷惑になります。
その2 野生生物の住処になる
田舎の山間部などでとくに問題となるケースが、耕作放棄地が野生生物の住処にされてしまうことです。
人の気配がないとシカやイノシシが安心して山からおりてきて、そこをエサ場にします。
この段階で対策を行わず放置していると彼らは次第にそこに居ついてしまい、さらなる餌を求めて周辺農家の作物を荒らし始めます。
たぬきやイタチのタメ糞て知ってる?
トイレ扱いされたら最後.. 臭いもすごくて大変。
その3 ゴミの不法投棄
これも山間部の耕作放棄地に見られる傾向ですが、管理されておらず草だらけの土地は不法投棄の場所として狙われることが度々あります。
地域の住民の生活環境に影響すると同時に健康被害や環境破壊を引き起こす原因になることも。
うちなんて草丈が伸びてくるとスグ空き缶とかマスクとか、いろんなものがポイ捨てされちゃう…
不法投棄を受けた耕作放棄地は農地として再生するのが難しく、売却するにも廃棄物を処分しなければなりません。
土地の価値は下がり貸したり売ったりできるようにするために余分な費用が掛かるため、運用しにくくなってしまいます。
その4 地割れ・保水機能の低下
農地は災害を防ぐ役割も果たしています。
何も耕作していない農地が増えることで、保水機能が低下し、雨が多い日本では洪水が引き起こされやすくなります。
また耕作放棄地では地面が乾燥し「地割れ」が起こります。
粘土などの滑りやすい層とその下の岩盤との間に地下水が入り込むと、水圧で滑りやすい層が持ち上げられ、そこが地すべりの原因となることも。
地域の安全な暮らしを守るためにも、地主一人ひとりの取り組みが大切になってきます。
その5 固定資産税を支払い続ける
以上のように管理を放棄された土地は段階を踏んで荒廃していきますが、それでも所有者は固定資産税を支払い続ける義務があります。
放置した期間が長くなるほど再生は難しくなるでしょう。
半ば林のようになった農地に獣が住みつき産業廃棄物が遺棄され…と、ここまで荒廃が進むと再利用したくても費用がかかりすぎます。
売却価格よりも処分や造成のための費用が上回り、再利用に踏み切れないということになりかねません。
このような最悪の状況になったとしても固定資産税を支払い続けることになります。
・耕作放棄地は段階的に荒廃する
・病害虫や鳥獣害のリスク
・不法投棄されると再生までの復旧費用がかかってしまう
・評価が下がって運用しにくくなっても固定資産税は支払い続けなければならない
管理放棄地に課される罰則
放置されて倒壊の危険がある空き家は「特定空き家」に指定され、行政の勧告や罰金命令に従わない時は6倍の固定資産税が課されるという罰則があります。
では農地の管理を怠るとどうなるのか、頻繁に手入れできない非農家さんには気になるところです。
結論から言うと次の2種類の罰則が課せられる可能性があります。
・耕作放棄地の課税は1.8倍に引き上げられるケースがある
・市町村からの措置命令に応じないと30万円以下の罰金
耕作放棄地とよく似たものに「遊休農地」や「荒廃農地」があります。それぞれの用語の意味から確認しておきましょう。
耕作放棄地 | 以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地をいう。 |
遊休農地 | ・現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農 地 (再生利用が可能な荒廃農地) ・その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し著しく劣っていると認められる農地 |
荒廃農地 | 現に耕作されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地 |
農林水産省「荒廃農地の現状と対策について」https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/Genzyo/PDF/Genzyo_0204.pdf
耕作放棄地の課税は1.8倍に引き上げられるケースがある
平成28年の税制改正によって、耕作放棄地のうち「遊休農地」の固定資産税は通常の経営農地とくらべて約1.8倍になりました。
うそっ聞いてませんけど!
課税対象になるのは「農業振興地域」にある農地じゃ
ほっ うちは農業振興地外でした。
課税対象となるのは農業振興地内で遊休農地と判断され勧告を受けた耕作放棄地です。
この判断は毎年1度農業委員会によって行われる「利用状況調査」(農地パトロール)に基づいて行われるもので、さらに再生可能かどうかで所有者は利用意向調査を受けます。
この調査から6ヶ月が経過しても所有者が行動を起こさないと農地集積バンクへ貸すことの協議が勧告され、この勧告をもって固定資産税が増税されるという流れです。
市町村からの措置命令に応じないと30万円以下の罰金
農地法第66条により、害虫や堆積物などで付近の農家の運営に著しい悪影響を及ぼした場合には市長村長から支障の除去等の措置命令が出されることになりました。
そしてその命令に応じなかった場合は30万円以下の罰金に処することが定められています。
◎増税の対象になる条件
・農業振興地域内
・遊休農地の判定
・再生可能な遊休農地
・農地バンクへ貸すことの協議が勧告
◎罰金の対象となる条件
・近隣農家へ著しい悪影響
・支障の除去等の措置命令
・措置命令に応じない
農業をする予定がない子世代が相続で親の農地を引き継ぐことになったら、管理がたいへんなばかりか金銭的にも負担がかかってきます。
暮らしにかかわる食料自給率をまもるために、国は耕作放棄地を減らし有効活用するためのさまざまな施策を進めていますが、とくに耕作放棄地をそのまま放置した場合の罰則については気をつけたいものです。
農業委員会の勧告を受けると30万円の罰金や固定資産税が1.8倍に上がってしまうペナルティが課せられますから「見て見ぬふり」をするわけにもいきません。
いつか当事者になるかもしれないあなたには土地持ち非農家の現状についてよく理解し、あとで後悔することがないよう、今から何ができるかを考えて備えておいていただきたいと思います。
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