人生に後悔はつきものです。
でも回避できる後悔はあえてしなくてかまいません。
この記事では農家をしていない私が、相続した農地を実際に管理しながら日々痛感している「これは相続前に知っておきたかった!」ことをお話します。
これから相続をひかえているひとの参考になれば幸いです。
すべてのひとに当てはまるとは限りません。あくまでも参考まで
遺産相続を経験したひとはどんなことを後悔しているのか
まずは世の中の相続体験者がどのようなことで後悔しているのか、具体的にみてみましょう。
「遺言書をかいてもらっておけばよかった」(50代 女性)
引用元:2022年「遺産相続で事前にやっておくべきだったと後悔したことに関するアンケート」
「兄弟ですごくもめて、なかなか相続ができなかった」(20代 男性)
「予め少しずつでも相談しておけば相続税を払う必要がなかった」(40代 男性)
「親に財産一覧表を作成してもらえればよかった」(60代 男性)
「やっぱりネットでの銀行口座のやり取りが把握しづらい。事前に知っておかないとアクセスすら出来ない」(50代 男性)
「日本トレンドリサーチ」https://trend-reserch.jp/12851/「日本クレアス税理士法人」https://creas-souzoku.com/
これは遺産の相続をしたことがある全国の男女1,000人を対象に行われたアンケートから抜粋したものです。
全体の32.8%のひとが「やっておけばよかったと後悔したことがある」と回答しています。
つまり「3人にひとりが今も相続に満足していない」ということになります。
心配になってきたひと、大丈夫ですよ!相続を迎える日までに今からでもできることがあります。
土地持ち非農家の5つの後悔 ~わたしの場合~
ここからは実際に田舎の土地を相続した私が、日々の管理の体験から「相続前に知っておきたかった」と感じていることをお伝えします。
あくまで個人的な感想ではありますが、リアリティーを感じていただけるのではないでしょうか。
その1 土地の特徴を知っておく
土地にはその環境ごとに異なる特徴があります。
特徴が分かるとその土地の活用方法の見通しが立てやすくなります。
そして活用方法の見通しがわかると、売却するべきか管理するべきかの判断をつけやすくなります。
公道からの乗り入れ口があるか
土が肥えているか
水はけは良好か …など
上下水道が整備されているか
農地転用できるか
高低差がないか …など
私の相続した土地は地区の入り口にあたる場所に集結しています。
往来が盛んな県道に面し、おまけに駅チカ(ローカル鉄道の無人駅だけど)という、田舎の割にはちょっとだけ好条件っぽい。
ところで土地というのは「都市計画法」に基づき、街の整備を推奨する市街化区域と、整備を抑え農業の活性化や緑地の保存を目的とする市街化調整区域とに分けられています。
※地域によって都市計画法が撤廃されているところもあります
私は子どものころから「うちは線引き(市街化調整区域に指定)されそうだ」とか「線引きされる前に売らないと大変なことになる」とか大人が話すのを耳にしていたので、父が所有する土地の区分は一体何なのか気になっていました。
幸いにも我が家の土地は「市街化区域」に指定されており、ときおり調整区域に入るだの入らないだのと住民説明会が行われるためビクビクしていますが、今のところは市街化区域内におさまっています。
行政に感謝!
で、市街化区域はさらに13種類の用途地域に区分されておりまして、これによると我が家の土地は「第二種低層住居専用地域」という「普通の一戸建てとか低めのアパートなら問題なく建てられますよ」というエリア。
こういった状況下ゆえ、私はすっかり安心していました
「うちが売れなば他所は売れまい」と。
両親の介護と育児とパートの合間に草を刈りながら、ついに限界に達した私は「こんなことやってられっかい(怒)」と近隣の不動産会社から隣の市の不動産会社まで問い合わせ、土地の見積もりに来てもらいました。
ところが見に来た営業マンが口をそろえて「ちょっとねえ、このエリアはうちの対象外で…」といってそそくさと帰っていくのです。
テニスコート20数枚分もの広さがあだになっているのか?と今まではそう思っていました。
それが最近になってようやくわかったのです。
「私の相続した土地の接道には十分な上水道が整備されていない」ことを!!
地区の入り口というのは言いかえると集落の外れということになり、確かにうちの実家以外には家が建っていない。
また下手に駅チカであるため線路をくぐって新たな配管工事をするのが難しい。
さらに鉄道会社というのは、手続きのための認可をもらうのが困難なケースが多い。
ほかにも接道との地面の高低差があったり、下水への接続距離が長いといったさまざまな障害があったのです。
これらの悪条件がハウスメーカーに敬遠された理由じゃな。
私のように土地の特徴を考えずやみくもに行動に移しても、途中で思いもよらぬ壁にぶつかることがあります。
ですから農業をする予定がないひとは、土地の売却を考える前に
「土地の水はけは悪くないか」
「家が建てられるのか」
「宅地に転用できる条件がそろっているか」
などについて事前に、できればご両親が元気なうちに確認しておくことをおすすめします。
土地の特徴を知っておけば、戦略も立てやすくなるんじゃ
戦略というと?
たとえば先ほどの例でいうと
・両親が元気なうちに近隣農家さんに安く買ってもらう
・相続放棄する
・農業を経営する気のある相続人がほかにいないか検討してみる
…と、こんなふうに事前に相談したうえで土地の分割方法を決めたりすることもできるんじゃよ
なるほど!
「うちの親はまだ元気だから」と先送りせず、ご両親やご兄弟と仲良く相談することをおすすめします。
【反省ポイント】土地の特徴を知っていればどうだった?
私の場合「家を建てにくい場所」と前もって分かっていれば、田や畑として利用したい人を積極的に探していたと思います。
管理の利便性を考慮し私が相続することになったのですが、そのために代償金をほかの相続人に支払う必要がありました。
売れにくい土地ということを事前にわかっていたら、あの時もう少し別のアプローチができたのではないかと思います。
あとは相続前に少額であっても金銭化しておいてもらえばよかったとも思います。
そうすれば管理の義務をひとりで背負うことなく、ほかの相続人とも分割しやすいですしね。
土地の特徴を知りたいときは、両親や近隣農家さんの声をはじめ親身に相談にのってくれる不動産会社に査定してもらえば、色々な情報を集めることができるでしょう。
より詳しい売却価格を知りたいなら、費用はかかりますが土地家屋調査士さんに依頼するのが確実です。
その2 基本的な権利関係の確認
不動産には「所有権」や「借地権」などの権利が定められています。
これらの基本的な権利関係については自宅で保管している権利書か、法務局で「登記事項証明書」を取得して調べることが出来ます。
不動産を売買するときには必ず「土地の権利」が関係してくるため、事前に調べておけばいざ売却しようと思った時に慌てずに済みます。
親が他界するまで分からないことは意外に多くあるものです。
調べてみると、ローンの担保がついたままだったり所有権の一部が親族との共有名義になっていたりする場合があります。
このような状態だと売却することができません。
いざというとき慌てないように事前に確認しておきましょう。
・実家や土地の所在や権利をひととおり確認しておく
具体的には…
└実家で保管されている権利書で確認する
└法務局で「登記事項証明書」を取得し所有者が誰であるかなどの確認をとる
ところで仙人、うちの実家お金持ちでもないのに土地が70筆以上もあってさ…
田舎ではよくあることじゃな、それだけあると中にはご先祖の名義のまま残っているのもあるかもしれんぞ。
子どもが親の土地を譲り受けるためには、相続前に親世代がしっかり名義変更されていることが条件になります。
親が亡くなったあとで土地を売却しようと思っても、その土地の名義が親ではなく祖父の名前のまま残っていたら登記のやり直しのための費用が余分にかかってしまいます。
名義を書き換えて売却するためには、二代遡った兄弟姉妹や彼らの子や孫にいたるまで全員の承諾を得る必要があります。
膨大な時間と費用を費やしても居場所を特定できない親族が一人でもいると、名義変更することも売却することもできないということになります。
でもって子孫が責任もって管理してよって頼まれたりして。
それってストレス~
このようなことのないように、ご両親が元気なうちに不動産の権利関係についてはよく話し合っておくことをおすすめします。
【反省ポイント】基本的な権利確認をしておけばどうだった?
親が元気なうちに親族間で話し合い、変更漏れがあるものについては親名義に書き換えておいてもらえばよかったと思います。
ただでさえ煩雑な相続手続きに加えてさらに余分な費用と書類をそろえる手間がかかり、親を見送ったあとホッとする間もなかったです。
また親が元気なうちにわかっていれば、他に有効利用してくれる親戚を見つけられたかもしれないとも思います。
その3 土地の境界線の確定
土地を売却するなら境界線を確定しておく必要があります。
境界が不確かなままでは、あとで隣地所有者とのトラブルにも発展しかねません。
境界線が決められていないようなら土地家屋調査士に依頼して土地の実測作業を行い、隣接する土地の所有者全員と協議のうえ境界確認書を交わします。
うちは範囲が広かったから期間は3~4ヶ月かかったかな
費用は現地調査で6~12万、測量7~15万、図面作成3~10万、登記申請4~8万…
このほか境界点の確認1点につき3万円前後、境界杭の設置1点につき3万円前後とかなりの予算を見ておく必要があります。
・土地の境界確定(実測作業)には費用がかかる
私の場合、両親が生前にせっかく境界確定をしてくれていたにもかかわらず、その後の草刈りで境界を示す杭(境界標と呼ぶらしい)をところどころ刈り飛ばしたせいで、再度測量をしなければならなくなりました。
なにやってんだか私…
さらに線路の際など、測量時に課題が残り未確定のままになっている箇所も見つかったりして、新たに2~30万ほどかかるかもしれないとのこと、つらい…
この記事を読んでくださっているあなたには、土地売却のチャンスを逃さないようしっかりと境界確定を済ませ、買い手が現れるのを待っていてほしいと思います。
ちなみに土地家屋調査士さんによって見積金額は数十万単位で異なります。依頼する際には必ず相見積もりをとるようにしてくださいね。
3社はとってね。
【反省ポイント】土地の境界線を確定してあるか確認しておけばどうだった?
両親が存命のうちに所有地の測量をしてもらったところまではよかったのですが、相続後に調べたところ、隣地とのトラブルになりそうな箇所や鉄道会社の承認が必要な箇所などの難所について境界が確定されていなかったことが判明。
土地家屋調査士さんにけっこうな金額を支払ったはずなのに、今さらクレームをいれるわけにもいかずもやもや…
このままでは売りに出すこともできず困っています。
その4 解体費用の見積もり
相続する土地の中には、農地だけではなくご両親が居住していた実家の宅地が含まれる場合もあるでしょう。
非農家が農地を相続すると管理がたいへんです。
あなたがもし離れた土地にお住まいで、農地の管理のたびに実家に戻るなら、草刈り機などの機械や管理資材の保管場所として実家を利用せざるをえません。
トイレや食事、草刈りで汗だくになったあとで体を洗う場所も必要ですよね。
つまりあなたが農地を管理する必要がある限り、実家は(誰が相続するかに関わらず)利用できる状況でなくては困るわけです。
私の場合は親の介護で帰ってきて以来、実家の向いに家を建て、実家の片づけや農地の草刈りは定期的に行っていました。
先日その実家の建っている土地を買いたい、というひとがあらわれました。
ただし古家はこちらの負担で解体し更地にしてほしいとのことです。
解体費用を見積もってもらうと300~450万と幅がありました。
金額にも驚きましたが、困ったのは古家そのものよりも敷地を囲む土塀と昔の家にありがちな庭園級の庭石の処分費用です。
さらに土塀の基礎も石積みのうえ、人通りに面したブロック塀は建築基準法の1.2メートルを上回る高さ。
このため売却するなら塀は残さずすべて撤去しなければならないとのこと。
産業廃棄物の量がすごすぎて、見積りがまだ確定していません。
おそらくプラス100万かそれ以上かかるのでは、と感じています。
売却価格よりも解体費用のほうが上回りそうじゃの
せつなすぎる…
農地の売却はむずかしい。
でも買い手が比較的見つかりやすい宅地に関しても、以上のような壁が立ちはだかるのが田舎の相続というものです。
読者のあなたには、ご両親が存命のうちに処分に困りそうな大きなものはまず家に持ち込まないでもらいましょう、と伝えたいです。
また解体業者によって金額も提示内容も異なります。
必ず相見積もりで詳細を確認し比較検討してから決めるようにしましょう。
庭石は… どうしようもないですが。
【反省ポイント】解体費用を見積もっておけばどうだった?
実家にはほかの相続人のものや思い出の品がいっぱい。
解体費用がこんなにかかると分かっていれば、相続前にほかの兄弟姉妹に費用負担や残存物整理の協力を申し出たり、両親に庭木の伐採や井戸の埋め戻しなどのお願いをしていたと思います。
両親が亡くなったあと、実家の所有権を得たものの、ほかの相続人には片付けにかかる金銭的な協力を申し出にくくなってしまいました。
その5 相続人同士での事前相談
相続の話し合いを円満にスムーズに進めるために気をつけるポイントは次の2つです。
まず被相続人が元気なうちに、実家の財産が「どこに」「何が」「どんな状態であるのか」を確認しておきましょう。
不動産については土地や建物の権利書がなくても、法務局で登記事項証明書を取り寄せれば確認することができます。
また預貯金に関して注意しておかないといけないのは、オンライン上でしか確認することが出来ないデジタル資産の把握です。
これについてはパスワードが分からなければ手掛かりすらつかめません。
いざというときに困らないよう、アクセスに必要なIDとパスワードなどの必要な情報は紙で残してもらうとよいでしょう。
そして最も大切なことは、これらの情報を兄弟姉妹間で共有し合えるよう、普段からコミュニケーションをとっておくことです。
相続人がひとりなら問題にはなりませんが、親の近くで身の回りの世話をしている子どもと、離れて暮らしている子どもが複数いる場合などはトラブルに発展しやすいようです。
親の意向を聞きやすい立場の子どもから、離れて暮らす兄弟姉妹に意識的に話を向けるよう心がけるようにしましょう。
介護にかかる金銭面でのルールなどを親子、兄弟間全員で話し合って決めておくのもいいですね。
【反省ポイント】相続人同士で事前に相談していたらどうだった?
うちの場合、両親の介護や預貯金不動産の管理については比較的よく相談していました。
今思えば両親と不動産の世話をメインで担っていた私と離れて暮らす姉との間で、長年にわたって積もり積もった感情があったのでしょう。
どんなに話し合いをしていても、親を見送る前後で家族は疲弊しています。
いつもとは違うテンションでお金や責任の話をするわけですから、意見が食い違っても不思議はありません。
我が家のケースでは、事務的なハード面は報告していたけれど感情的なソフト面でお互いに本音を話していなかったことが「もつれ」の原因でした。
もし事前に相談していたら、もっと円満に家じまいができ、わだかまりも残らなかったでしょう。こじれたくないために、不公平感を飲み込んだままの相続になってしまいました。
遺産を具体的に把握しておくことの重要性を体験者の目線でまとめました。
相続で後悔したくないかたは参考にしてみてくださいね。
今回は非農家の農地相続を経験し、その後実際にその土地を管理している私が体験から得た「知っておきたかった」ことをお話しました。
土地などの不動産には場所柄や広さによって異なる特徴があり、特徴によって自然とその土地の「適性」がわかります。
土地に関する正しい認識を持てば、今後土地活用すべきか、管理していつかは売却するのか、売却するなら農地のままか宅地として売るのがいいかなどさまざまな対策を講じることができます。
そして得た情報は相続人で共有することが大切です。土地に関するメリットとデメリットの両方を見定めたうえで、分割の際に相続人の誰かに不公平感が残らないよう協力し合いましょう。
どうか「相続はまだ先のこと」と後回しにせず、今できることにしっかり取り組んで幸せな相続を経験してください。
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